AI投資が成果を出さない理由

2026/10/12・24 min read

AI投資は進んだが、成果は出ていない

AI投資で企業が劇的に変わる。そう言われて久しいです。では、導入した企業では、劇的な良い変化がもたらされたのでしょうか。どうやらそういうわけでもなさそうです。企業側としては、

変化は期待に反し、限定的なものにとどまっている

というのが実感のようです。

この実感には、裏づけがあります。日本の公的統計が、同じ結論を示しています。

導入は、既に一巡しています。総務省の情報通信白書によれば、日本企業全体の86.4%が何らかの業務で生成AIを利用しています。前年の55.2%から1年で30ポイント以上増えました。もはや「利用の有無」という段階は超えているように見えます。

利用企業では、効果も実感されています。帝国データバンクの調査では、生成AIを活用している企業の86.7%が「効果が出ている」と答えました。

一方、その効果は一箇所に偏っているようです。効果の対象は主に、文書、要約、メール、議事録なのです。同調査で生成AIの主な用途は「文章の作成・要約・校正」が45.1%、「情報収集」が21.8%でした。データの集計・分析は7.4%、コード生成は5.9%にとどまります。IPAの調査でも、利用用途の1位は「文書・音声の要約・翻訳・校正」で82.5%でした。

総務省の白書は、業務別の効果実感を並べています。1位は「議事録・メール作成補助」で72.3%、2位は「社内ヘルプデスク」で42.7%でした。上位2つで約30ポイントの開きがあります。さらに、業務類型のうち、効果実感が最も低いものと比較すると、その差は3.6倍です。

同じ生成AIを利用している企業でも、適用する業務によって効果や実感はこれだけ異なります。

では、その結果として、労働時間と人手不足は、解消されたのでしょうか? 個々の作業の実行速度は、速くなっているようです。しかし、この2つについては、大きく変わってはないようです。

厚生労働省の労働経済動向調査は、「AIを活用する狙い」と「活用後の効果」を同じ選択肢で尋ねました。作業負担の軽減・効率改善は狙い93%に対して効果91%。労働時間の短縮・休暇増加は狙い46%に対して効果25%。人手不足の解消は狙い47%に対して効果22%でした。

作業負担は、想定通りに軽くなった一方、労働時間の短縮と人手不足の解消は、狙いの半分ほどの達成にとどまりました。

パーソル総合研究所の調査も、同じ傾向を示しています。生成AIを利用したタスクは、所要時間が平均16.7%短くなりました。1週間あたりでは、26.4分の短縮です。ところが「業務時間が減った」と実感している人は利用者の25.4%にとどまります。削減できた時間の61.2%は、別の仕事に再投下されています。

しかも、実際の業務でAIを利用すると、その出力を検証する負荷が発生します。後述しますが、AIの出力は、確率的なものであり、時にハルシネーションといって、間違った回答をする場合があり、常に正しいとは限らないためです。

それを裏付けるかのごとく、帝国データバンクの調査では、企業が挙げた最大の課題は「情報の正確性」で50.4%でした。この結果も企業にとっての生産性向上の阻害要因となりうるため、整理する必要がありそうです。

なぜ、これほど利用されているのに、成果が出ないのでしょうか。 成果を出すためには、目標の設定と業務の再設計が必要と考えます。

目標が定まらないまま、導入が始まる

弊社では、AI導入の御支援をさせて頂いています。しかし、詳しくお話をお伺いすると、導入の範囲・規模・達成すべき目標が定まっていない場合が殆どです。

プロジェクトにおいて目標を定めることの重要性は広く認知されているところですが、ことAIに関しては、バズワードとして流行しているせいで、「自社もAIで何かするべきだ」という意思決定が先行してしまっているのかもしれません。

しかしながら、達成目標が確定していなければ、導入の巧拙を測る基準も定まりません。成否を誰も判定できません。そのため、目標の設定が全ての出発点になります。

成果の基準は、財務的な改善にある

成果を判断するためには、目標を設定することが必要です。企業活動の場合、その目標は、財務的な改善が実現できるかどうかとするべきだと考えます。

財務的な改善のうち、どれを、どの水準まで実現するかという目標を立て、目標が達成できた状態が成果であり、達成できていない状態は失敗です。

先に見たアンケートで示されていた「効果」は、業務が楽になった、速くなったという実感でした。その結果自体が良いことであることに議論の余地はありませんが、企業活動で成果があったかどうかについては、別の観点で議論をするべきです。企業活動では最終的には財務的な観点で効果測定をするべきと考えます。

財務的に改善可能なのは、外注費、SaaS利用料と人件費の3つ

AIの導入によって財務的な改善が見込めそうなのは、外注費、SaaS利用料、人件費、の3つではないかと考えます。

まず1点目の外注費ですが、これは最も削減余地が大きい費用です。外注先に委託していた業務を、自社がAIと人の両方で担う形です。発注量を削減できた分だけ、外注費を削減することができます。ただ成果がどれくらいあげられるかは、AIが委託内容をどれだけ代替できるかに依存しています。

2点目のSaaS利用料も、削減余地が大きい費用です。外部から調達していたシステムの利用料が、内製への移行で削減されます。この内製プロセスは、開発をAIに任せることができます。運用はAIが開発したプログラムが担います。移行にあたっては、開発と運用のコストは、新たに発生するようになるので、そこは差し引いて見積もっておく必要があります。

最後の要素の人件費は、簡単でありません。仕事の総量が減っても、人が残れば、人件費は削減できません。人材を削減して初めて効果が出ます。ところが日本では人材の解雇はとても難しいため、人件費の圧縮は新規採用の停止などの対応策を取らざるを得ないところがあり、時間がかかります。

よって実務的には、外注費とSaaS利用料の削減を、その削減対象とするのが良さそうです。

AIは確率的である

AIの出力は、確率的なものです。つまり、同じ入力であっても出力は毎回僅かに変動します。この変動は、AIの設計上の性質です。ハルシネーションを起こすこともあります。

「今後AIの性能が上がってゆけば、毎回同じ出力、つまり確定的な結果を出せるようになる」と考えてしまいそうですが、少なくとも現在のAIではその仕組み上、これは難しいでしょう。

このAIの特徴を踏まえると、業務要件として正答率100%が求められる場合は、AIを利用しないべきだ、ということになります。

AIは確率的な回答をする、という特徴を踏まえたうえで、業務の再設計が必要である

前章でも述べました通り、AIの出力は確率的なものです。同じ入力でも、毎回僅かに変動します。この特徴を踏まえずにAIツールを導入すると、例えば次のような望ましくない事象が生じるでしょう。

AIツールを全社に配布し、運用は各人に任せたとしましょう。営業は見積書、経理は領収書の読み取り、総務は議事録の要約を、それぞれAIに委ねます。

数カ月後、冒頭のデータ通り、個々の作業スピードは速くなっているはずです。見積書は数分で作成、領収書の入力も短時間で完了することが可能になっているでしょう。

ところが、その出力は、AI独特のもっともらしい見栄えのせいで、内容がしっかりと確認されないまま、後続の業務プロセスに進められる可能性があります。

このような場合、インシデントの発覚地点は、下流工程になります。上の例ですと見積の条件は発注に引き継がれ、金額の不一致は請求と回収の段階などで発覚したりする可能性があります。インシデントの発覚時、修正には大きく時間がかかります。つまり、会社全体では、かえって時間を要してしまうことになり得るのです。

振り返ってみると、AIのような出力が確率的に出るようなものは、これまで企業の業務プロセスに組み込まれたことはなかったはずです。

これまではDX、SaaS、と様々大きな流行はありましたが、どれも出力は機械的に計算され、入力が同一であれば、何度実行しても同一の出力内容となるものでした。つまり、確率的に出力内容が決められるものではなく、決定的に決められるものだったのです。

その観点でいうと企業は初めて確率的な出力を行うツールの導入を行おうとしている、といえます。

このように、これまで企業が経験してこなかったタイプのソフトウェアを導入するのにもかかわらず、その特性に合わせた体制を準備できておらず、それ故に効果が上がっていない、というのが現在の企業側の状態ではないかと考えます。つまり成果が上がっていない原因は、AIというツールそのものではないと思うのです。

成果を上げるためには、AIの利用を前提として、業務の再設計を行うべきなのです。業務の担当をその特性にあわせて、AI、ソフトウェア、人の3者に再割当てするわけです。

先の調査も、この見方に沿う結果です。労働時間の短縮も人手不足の解消も、狙いの半分ほどの達成にとどまりました。役割分担が変わって初めて、仕事の総量が減り、費用或いは売上に良い影響が現れるはずです。

どの業務をAIに割り当てるか

どの工程を誰に割り当てるかには、2つの論点があると考えます。 「業務の不可逆性」と「業務の定型性」です。この2つは、互いに独立した論点です。

AI導入判断マップ。縦軸は業務の可逆性で、上は不可逆な業務、下は可逆な業務。横軸は業務の定型性で、左は非定型な業務、右は定型な業務。不可逆な業務は、非定型ならAIが出力し人が承認、定型ならソフトウェアが処理し人が承認する。可逆な業務は、非定型ならAIが担い誤りは元の資料との機械的な照合で検出し、定型ならソフトウェアが担い同じ入力から同じ結果が返る

1つ目の論点は、業務の不可逆性です。これは図の上下に当たります。不可逆な業務とは、実行したあとに取り消せない業務です。相手に届く、お金が動く、社外に公開される。いずれも、後から訂正はできても、実行しなかったことにはできません。契約、支払い、送信、リリースやサイトの公開などがこれに該当します。逆に、可逆な業務とは、実行しても自社の外に影響が出ない業務です。文書の下書き、資料の集計、金額の計算などが当たります。誤りは、作り直すか、社内で直せば済みます。不可逆な業務は、誰が担うかに関わらず、人の承認を通すべきです。

2つ目の論点は、業務の定型性です。図の左右に当たります。定型な業務とは、同じ入力から同じ結果が出力される業務です。会計の記録や給与計算が当たります。逆に、非定型な業務とは、正解を一通りのルールとして書き下せない業務です。文書の作成、メール、情報収集、資料の要約、分類などが該当します。AIの出力が確率的である以上、業務に求められる正確性の水準によって、AIを利用すべきかどうかが決まります。

図の左エリア、非定型な業務は、AIの適用が期待できる領域です。文書の作成、メール、情報収集、資料の要約、分類などが対象です。そもそも正解を規則として定められないので、確率的に判断するAIでも対応できます。その上で、可逆な業務(図の左下)での誤りは、システム的な対応で、元の資料との機械的な照合を行い検出すればよいのです。

定型な業務、つまり図の右側は、同じ入力であれば同一の出力を返すことができるソフトウェアで対応します。これは従前から導入されている仕組みです。

不可逆な業務にも、AIが担う工程とソフトウェアが担う工程があります。図の左上と右上に当たります。文書の下書きを担うのは、AIです。その送信は、人が承認します。支払いの計算を担うのは、ソフトウェアです。その決済は、人が承認します。不可逆な業務である以上、人による承認は、どちらの工程に入れるべきです。

AIが代替できるのは、従前人が読み取り、整理していた工程までに限られます。例えば、営業部では受注や売上の登録、マーケティング部では広告費の集計、製造部では在庫の入出庫の登録などです。AIが対応した結果の正確性は、定められた手順通りに動作するプログラム、または人の承認で担保します。

総じて、AIには、ルール作り自体の委任は可能です。一方、ルール通りに実行する役割は、プログラムが担うべきです。なぜならば、実行には、毎回同じ結果を返す、決定論的な能力が求められるからです。AIの出力は確率論的で、毎回僅かに異なるため、実行を委ねると、業務の要件を満たさない場合があるからです。この役割分担が成り立つと、これまでSaaSを買って済ませていた定型業務を、自社で作れるようになります。開発はAIが担い、運用はプログラムが担うためです。2点目に挙げたSaaS利用料の削減は、ここから生まれます。

まとめ

AI投資を成果に結びつけるには、目標の設定と、業務の再設計が必要です。今利用されている生成AIのサービス自体は革命的なものであり、適切に体制を整え導入することで、財務的な改善を見込める可能性があります。

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